あるハイジャック犯について
先日起きたこれまでにないハイジャック事件についてニュース番組はずいぶん熱心でした。まず日本で初めて死者がでたこと。しかもパイロット。その後、犯人が自ら運転を試みたこと。犯行予告があったこと。犯人宅から飛行のバーチャルリアリティーゲームが押収されたこと。どれも興味深い事実ではあるけど、どうして刃物が機内に持ちこまれたかが解明され、犯人が精神鑑定にかけられると発表されたのだから、マスコミもしだいに静まってゆくのでしょう、たぶん。 その犯行がハイジャックという形をとったこと、死者がでたことの二つを除けば、これは問題になる性質の乏しい事件で、発表通り、飛行機にとりつかれた青年がパイロットになれず狂気に陥っただけなら、どこにも採用されなかったアニメおたくが映画事務所に殴り込みをかけたようなもので、どこの業界でもありそうな逆恨み話。違うのは、一般人がまきぞいで生命の危険にさらされたことと、被害者がいたことで、報道がこの二点に集中するのも当然。 けれど、僕はむしろこの犯人に興味がわくのです。 と云っても、たとえば「本当にパイロットになっていれば彼も真っ当な社会人だったのかな」と考えたところで、僕は彼について何も知りませんから、はたしてその適性があったのか見当もつかないし、(乳胎児期の状況なんか知る権利もない)、実際彼が指摘していたという空港警備の不備にしても凡庸なもので、ちょっと頭働かせれば気付きそうなことですね。 哀れなことに、彼はついに一度もパイロットになったつもりに本当はなれなかったのでしょう。バーチャルリアリティーで似た充実が与えられれば、非現実に引き蘢れます。むしろ疑似体験を繰り返すほど彼には欲求不満がたまるだけだったんでしょうね。セスナ機を飛ばすなんてのも特例ですし。 独断を許してもらえれば、犯行声明も彼にとっては「警備を改めろ」というこれまでの意見の反復だったのかもしれません。それで犯行が失敗すれば、彼は空港側が自分の進言を採用したと独り決めし、喜んで逮捕されよう、なんてね。希望的観測の上、ずいぶん自己中心的な発想ですが。ほとんどの人はあきれます。 彼の正気が薄れたのは、たぶん犯罪が成功してしまったからなのでしょう。 でも、できるなら彼には病院なんかじゃなく檻の中で罪を償って欲しいものです。 以上、ささやかな空想非科学小説でした。
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