あ・はるふ・まんすりー・こめんと 2001年2月7日

 
  VS.水

 ここ数年、水と戦っている。もちろんただ時間を浪費しただけというケースもあるけど、やむをえないならしかたない、とことんやるほかないのである。
 僕は河原を散歩するのが好きだ。水はあのようにゆったり滞りなく流れなければいけない。でも、都会ではなかなかいつもそうはいかないのだ。

 

 
  パソコンのせいにするな!

 I市に引っ越して間もなくの頃、始めての水道料請求書を見て、のけぞった。十一万円。ここは家賃三万の文化住宅の一室であって、町工場でもガソリンスタンドでもないのだ。
 即日、水道局に押しかけると、職員は不審な目つきでこちらを睨みつけ、しばらくパソコンをOLに叩かせた後、こちらに戻るや胸を張り、
 「コンピューターの計算ミスでしたよ」
 まるで悪いのはコンピューターであって、こちらの責任ではない、という口振りであった。
 それでも、料金は正常に改まったし、水はともかくまっとうに流れていた。

 

 
  事件勃発

 去年移った部屋で驚いたのは、あまりに空気が湿っぽいことだ。革靴は一月足らずで黴が生えた。除湿容器を五個並べたら、二ヶ月で満杯に。ユニットバスの壁と床は、水滴が浮きっぱなし。
 「どこか水道管に穴が開いてますな」
 最初に来た水道局員はあっさり言った。しかし、そこを塞いでも事態はまるで改まらない。
 そして、今年一月某日、事件は起こった。
 おそろしく冷えこんだ朝、目覚めて、カーテンを開けると、外はどしゃ降りの雨だった。戸口から新聞を取り、部屋に戻ったが、何かおかしい。快晴なのだ。狐の嫁入りかと思ったが、違う。建物の最上階から水が漏れているのだ、それも大量に。
 その日はベランダの外からずいぶん悲鳴を聞いた。それはそうだ。よく前を見ず歩いていたら、いきなり上から降り注ぐ水の為ずぶ濡れになっているのだ。災難と呼ぶしかない。
 最上階の住人は留守らしい。
 夕方、こちらに水道の検針員が来た。お宅の水道管が漏れています、と言う。またか、と思った。メーターを見に行くと、蛇口はすべて閉じているし水洗装置も動いてないのに、たしかに動いている。そして、検針員は今回の使用量通知書を示した。これまでの倍以上だ。
 「早急に手を打つべきですよ」
 僕はまた水道局に連絡を入れた。ついでに最上階から吹き出している人工雨の話もした。しかし、なかなか修理は来なかった。その日は寒気で同様の事件が市内に頻発していたのだろう。
 あれから建物の管理会社をも含め、いったい何度電話をかけただろう。最上階の水漏れは深夜ようやく修まった。僕の部屋の水道管に異状はないそうだ。かくしてこれまでの倍以上の料金を理由もなく請求されている。最上階の住人への請求はほぼ普段通りだそうだ。相変わらず部屋は湿っぽく、除湿容器に水は刻々と溜まってゆく。
 水は正しい方向に流れていないのではないか。どこかで、ぽとりぽとり、あるいは、どくどくと、漏れているのではないか。そこでは漏れた水が流れるべき場所を失い、土深く澱んでいるのではないだろうか。
 役所からはもう十日間連絡はない。

 

 
  懐メロを知った日

 さて。
 どうやら僕はいままで懐メロとは何かを知らなかったらしい。
 もちろん僕にだって懐かしい曲はある。でも、懐メロ趣味は僕にはなかった。そもそも僕は中学時代から自分の生まれる前の曲で楽しむような奴だったのだ。
 ビートルズは今でもCDを時々聴く。レノン&マッカートニーはまったくすばらしい。モーツァルトのように。懐かしいと云うのとは全然違う。
 スプリングスティーンはもう聴かないが、耳にすれば、やっぱりすばらしいと感じる。懐かしいのではない。シューベルトのように。これも何か違う。
 ディープ・パープルやクラッシュ。なんか昔よく鳴っていた気がするなあ。改めて聞き込む気にはなれないね。気持良いけど。
 キャロル・キング、プリンス。聞くともなしに聞いていた。今聞いても佳い曲だなあ。でも、懐かしくはないね。
 だから僕には懐メロなんて関係ないと思い込んでいたのだ。
 ところが最近あちこちで聞いてしまう。
 アバ。くだらない。単純なメロディ、つまらない詞。どれくらいつまらないか。なにしろ"You are the dancing queen,young and sweet,only seventeen…"って、どこまで唄えるんだ、俺。試したら、結局最後まで唄い切ってしまった。しかも「チキチータ」を聞くと、なんと心が浮き立つんだよ。
 これこそ真の懐メロではないか。どれほど理性が名曲ではないと言っても、体が拒否する。あの時代の空気を肌に感じてしまうんだな。
 そういえば気紛れで買ったアバのレコードを聞きに、それまでたいして話したこともなかった級友達が家に遊びに来たっけ。化石のようなエピソードさ。あのレコードはどうしたのだっけ。
 今日も「チキチータ」をラジオで聞いた。そしてまたもや僕は、曲のすばらしさにこれっほっちも惹かれないまま、あふれるせつなさに圧倒されつつ、拭えない寂しさにちょっぴり浸ってしまったのだった。
 ところで、アバってインターネット上ではアルファベットでどう表記してるのだろう。ABBAでその場をしのいでるのだろうか。最初のBが左右裏返しなんだよね。上下逆ならAを∀とすることもできるけど。凝り過ぎるのも良くない、という教訓になるかな。

 

 
  近況

 周囲の人が次々病院へ行く。
 近頃は病院では薬をくれない。薬局で調合してもらう。
 急性胃腸炎を患った友人が「辛いよ」「雨よ」というわけで、診療後、直接、自室までタクシーで戻ってきた。当然薬はない。それで僕が代わりに薬局へ購入に行くことにした。着くと、薬剤師いわく、たまたま所定の物が持ち合わせにないので二時間後もう一度来てくれ、と言うので、そうした。
 貰ったのは一週間分。友人は一日で全快した。
 すると、その日から僕が同様の症状で苦しむことに。結局、薬は残らず使用された。
 病院には行かなかった。
 めでたいのだか、どうだか。

 

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