あ・はるふ・まんすりー・こめんと 2001年9月9日

 
  だれもいない

 ふと、この晩夏ついにトワエ・モアの「だれもいない海」を耳にしなかったな、と気付いた。
 かつては、この季節の定番曲。とうとうそんな時代が来たのか。死ぬまで毎年聞かされるものだと思っていたけど。
 いや、そんなことはない。今でも春になれば、イルカの「なごり雪」が、千昌夫の「北国の春」も、女性合唱団の「早春賦」でさえ聞こえる所があるはずだ、おまえがそういう所から離れてしまっただけだ、とも思い直す。しかし、今夏の日本で、桑田佳祐の「波乗りジョニー」を耳にせずに過ごすことが、およそ不可能だったように、むかしは半強制的にでも聞かされる物ではなかったろうか。特に自分のように、ラジオをしばしば付けっぱなしにして、今年はジャネット・ジャクソンとジャミロクアイを厭きるほど聞かされ、なぜフーの「サマータイム・ブルース」をこれほど耳にしたのにジャニス・ジョプリンの「サマータイム」は一度も聞けなかったのかなどと考えている輩にはなおさら。
 二十一世紀。そういうことだ、きっと。
 それでも藤原敏行の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」を目にしない年はないのだ。まったく短歌ってのは恐ろしい。

 

 
  模倣作?

 模倣作について論じるのは難しい。
 いつだったか、歌手Aは某テレビ番組で司会者から「パクりがいるでしょ」と話しかけられ、「ああ」と曖昧に頷いたら、歌手Bのファンが「AがBを批判した」と受け取り、その結果AとBのファンが喧嘩になった。
 ばかばかしいけど、ある意味で健全な反応じゃないか。
 たとえば、歌手AのファンがA本人に「Bにパクられた」と怒り、噛み付くのは、Aにとって御門違いというもんだろう。
 じゃ、そういう反応は誤りか。そうとも言いきれない。彼等にはどのような言動をする権利も資格もあり、それを批判することはできない。
 そして、まさにそういう種類の喜劇が行われている場所だってあるんですよ。本当に。
 それが厳密な意味での盗作とか模倣歌に当たるか否か検証しても意味がないのさ。その歌手にせよ、ファンにせよ、当人がそう感じたこと、それが問題。裁判ざたになったわけでもないし。
 こういう場合だれに怒るのが正当なんだろう。それが解らないのが一番の問題なんじゃないのかな。すると自己嫌悪がやってくるんですね。頭にきてるのにその感情を何処へぶつければ善いのかわからないと鬱屈するんですよ。嫌だなあ。
 流行歌はそれでもまだいい。たとえば、短歌の場合、本歌取りの伝統やら、盗作との相違やら微妙な問題を孕んでいて、なおさらやりずらいんだよね。
 斎藤茂吉は自詠の「死にたまふ母」が大量の模倣歌を産んだため、かつての愛読者からオリジナルまで嫌になったと言われたことを報告してます。なんだか寂しい。

 

 
  読んでる? 呼んでよ

 自由でありたいと念じる。自主的にふるまっていると思う。でも、実際は、多くの場合、怪しい。難しい。
 あいもかわらず、テレビはスポーツ番組以外ほとんど観ないと言うと不審な顔をされる。観たい物がないからと答えている。自分の側から眺めれば、その通り。間違っていない。
 けど、制作者側から見れば、彼等には彼等のターゲットがあり、僕は最初からそこに含まれていないだけ、とも捉えうる。映像媒体にはまったくあからさまなほどそこがしっかりしてるから。特にテレビはスポンサーの問題もあるし。
 作品には常に送る主体と受ける主体があるわけ。なくなれば、作品も事実上消える。パチン。
 文字媒体でもそこがとっても明確な物がある。ここにも僕がターゲットに納まる処は少ない。おかげであれほど大量に出版されている著書にも読みたい物はほとんど無し。出費が嵩まなくてよい。おかげさまで。
 ところが、必ずしもこれは送り手でコントロールできるわけではない。時には大きくずれることだってある。
 結局、一方が全面的に自由と云うことはありえない。
 ここでトランスパーソナルとか起立性障害の話に移ったら、さらに知的現代的になるんだろうな。でも、そんなのは無し。うざったい。
 ちなみに。
 同人誌や結社誌は、そういう部分が明確だ。たいてい受け手は気心知れた仲間、友人知人。和歌はもともと宴や文の添え物、俳句は句会の座興。迷いがない。だから今、友人知人しか読まないんだな。もっともだ。そうでない人もちゃんといるにはいるんだけどさ。
 小説は? 最近はなんか似たような様だな。あれも昔は有識者の教養だったんだもの。やれやれ。

 

 
  だれもいない

 小さな島へ行きました。
 南の海だから秋なのに船は満員。
 なのに波が高すぎて、砂浜はここもなだらかな無人。
 戻りの船で皆寝そべり、波乗りジョニーになれたのでした。
 ああ、あ。

 

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