最終兵器彼女
さて、去年の My コミック・ベスト1は、高橋しん「最終兵器彼女」で決まり。他にノミネート無し、ダントツのトップです。最近の漫画は低調だ。特に少年誌は。 高橋しんを始めて知ったのはヒット作「いいひと」で、これは最初はおもしろく読んでいたけど、企業の疑似家族的体制を賛美するような保守的反動性等にだんだん付いていけなくなって、テレビドラマ化された時はもう見向きもしていなかったから、新作も全然期待せず、その連載第二回で第一回の印象からからまったくオーソドックスなラブコメと思い込んだ読者おそらくほぼ全員を仰天させてくれた時も、さてこの調子がいつまで維持できるやらとたっぷり懐疑的だったのに、とうとう最終回まで突っ走っちゃった。まいったな。描く前から大筋の話はできていたというコメントは、本当なんでしょう、きっと。 「ぼくの周りのいとしいものだけ変わらないことを望むのは愚かなことだろうか」 テーマは前作同様あいかわらずのそんな保守的感性による物なんだけど、それが「いいひと」のたとえば(社会の)制度や組織とかへの執着と、本作のような(恋人の)命への愛惜とでは、まったく違う。またかよと言いたくなる似たような言い回しもあるにせよ。だから、反発はあっても、嫌悪にまで至らず、すっと作品世界に入れたのでしょう。 これはせつないラヴ・ストーリーなのだから。 あるいは、SF大量殺戮ラブコメ漫画とでも呼ぶのか、ハードなストーリーも、ほのぼのとしたヒロインのおかげで、時代の気分に添いながら、暗くならず、くすくす笑い、少しホロっときて、正統派でシリアスに描いたら、ひどい絶望的な展開にならざるをえない話なのに、中だるみするどころか巻を追うごとに先が気になり、おもしろく読めたと感じさせてしまうのは、エンターテイメントとして見事。拍手。大仕掛けの話を高校生の視点に設定したので、とても読みやすかった。頻出する性描写も却って親しみやすさを増してしまうのですねえ。俺もひさしぶりにやろうかな。性描写をですよ、性交渉をじゃないよ。 「ぼくの周りのいとしいものだけ変わらないことを望むのは愚かなことだろうか」 しかし、結局この話で悲劇を生んだのは、変わらないもの死なないものを造ろうとする意志、そして、滅ぼしたいものだけを消そうという意志なのです。その結実が、ここでは「最終兵器」。つまり「死なないもの」であり、「失いたくない対象を滅ぼしかねない相手なら消してしまおうとするもの」なのでした。にもかかわらず、だれもがいとしいものを守ろうとし、失ったものを嘆くだけ。心優しいヒロインも、消してしまったものに「ごめんなさい」を繰り返すことしかできない。それがせつないんだな。 だから「横並びの平和」を無条件に持ち上げるセリフより、厭戦気分にさせる描写の方が好い。くどいと、しらける。 未成年を対象にしながら親や学校をまったく考慮に入れない国家による極秘行為(どうして高校生が周囲に内緒で自衛隊小隊長になる?)、インターネットもないひどい情報過疎地帯等々、場面設定の説明不足やナンセンスや御都合主義で物語にノレない人もいるでしょうけど、それを補って剰りあるリアルな感覚を僕は感じました。創作家が現実認識を表わすなら、どれほどそれが歪んだ物であろうとやっぱり作品で表わすべき。時には作品が作者を越えてしまうことだってあるのだから。僕も倣おう。できるだけ矛盾のないリアルな形で。 それにしても、だれかこれを美しい映画にできるアニメーターはいないか。この細い線を下手に映像にしたら、太い線のギャグアニメになりかねないけど、(幾つかの失敗作が脳裏をよぎる…)、大きな画面でこの世界にたっぷり浸ってみたい。無理かな。 ちなみに、去年お薦めした「トガリ」は最近苦戦気味。ヒロインの家に居候してから出会った善意の登場人物が全員類型的過ぎて、がっかり。「悪」に対する認識に比べ「善」に対する認識が弱くないか。たんなるテロ的混乱というモチーフも、ハリウッドが破壊描写を自粛する「今」にそぐわなくなってきてるしね。 時代は変わった。
<付記> その後、「最終兵器彼女」は本当にアニメ化が決定したそうです。大丈夫かな…。
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