作り話「舞姫」
森鴎外の「舞姫」は、私小説とする論文を読む。
しばらくして今度は、この小説は鴎外の実体験だと学校で教わった、という書き込みをネット上で見かける。本当かどうか知らないけど、ありそうな話。
芥川龍之介が小説の末尾に、この物語はなんたらという書を出典にしてうんぬんと書いたら、学者がその書をぜひ教えてほしいと言うので、そんな物はない、作り話だ、と答えたら、怒られたとか。まあ、そんな話、珍しくもないのかもしれないのだけど、だからこそ小説の読み方を教える必要もあるんだろうと思っていたら、そもそも授業でもまともには教えてないらしい。今更、学校に何を期待していたわけでもないけど、ひどいな。
僕は「舞姫」が大好きです。読み返すほどに理解が深まっていくような、読書の至福を味わえます。十代の頃は雅文体が難しくてあまりわからず、なんとなく「うたかたの記」の方が好いな、と思ってたのですが。
もちろん「舞姫」の主人公・太田豊太郎は鴎外その人ではなく、法学士・豊太郎は医学士・鴎外が関係するはずもない政治的体験をするのです。豊太郎はドイツで官職を解かれ、新聞社の通信員になった後、大臣の懇意を得る、波乱万丈の道を歩むのだけど、現実の鴎外は留学先で無事大過なく医学研究を終えている。豊太郎の住まいは、鴎外が帰国直前わずかのあいだ留まったベルリンでの三番目の下宿をモデルにしているらしいけど、豊太郎は仕事をクビにされた後、その住まいから物語のヒロインであるエリスの部屋に移り、同棲生活に入る。エリスが何処に住んでいたのかははっきり書いてない、でも、記述によれば教会のそばらしいからその教会のモデルを定説通りの建物としてそれを足場にだいたい見当をつけると、そこは鴎外が二番目に住んだ、事実上ベルリン生活のほとんどをそこで過ごした下宿のすぐそばで、あるいはエリスの住居は、鴎外が住んでいた部屋そのものかもしれず、するとエリスとの恋物語も全部鴎外の巧みなフィクションと解釈した方が納得がいく。ちなみに鴎外の下宿は、一番目が鴎外記念館となり、三番目が修理した上で残されているらしいのに、二番目は周辺一体すべて戦争で完膚なきまでに破壊されてしまったとか。聞き取りでも写真漁りでも良いから誰かが実物を再現してくれたら、作中の描写と比較もできるのだけれど。
けど、豊太郎とエリスが出会うその教会にしても、モデルにさまざまな異説があるらしい。でも、それも鴎外の作り事で、本当はそこに教会など最初からなかったのだ、と言い出す人がいてもおもしろいのにな。小説だもの。
小説に描かれてるような、現実のドイツ女性に金銭的援助をしたらしい形跡は何もなし。日本に鴎外を訪ねてきたヨーロッパ女性はいても、性的関係があったかどうかも謎。
小説はしょせん作り話でしょう。
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