亀の呪い
深夜、「ピンポーン」と玄関ブザーが鳴ったので、わざわざ寝床から起き上がり、ドアの覗き穴から外を見たら、一人の男が家庭用ハンディビデオをかかえ、僕を待っていました。 世間がようやくワールドカップ・フィーバーを終えて、夜更かし生活に別れを告げようとしているのに、何なのですかね。近所に住む者として、まったく知らない仲ではないですが、そのまま布団へUターンしました。 そういや、昔のマンガに、何処へ行くにもハンディビデオ撮影機を離さない少年がいましたが、あの総てを撮影したいと云う欲望はどうして湧いてくるのでしょう。もっとも、彼とは違い、その男は「僕」を撮りたかったのでしょうけど、彼と僕との薄い付き合いから推察して、自分に関わりがある者を残らず写したいと云う意志でもあるのか、あるいは、酔っぱらっていて、イタズラがしたかっただけなのか。あれから見かけないけど、どうしたのでしょう。 「呪われた生活」 布団に戻り、今目にした光景を説明したら、同居人にそう言われました。 「呪い? 誰に?」 「さあ?」 呪いと言われても、ピンとこない。子供の頃、亀の足が遅いことに引っ掛けて、「亀ののろい」という駄洒落が流行ったのを憶い出し、
♪もしもし亀よ 亀さんよ♪
懐かしい童謡を口ずさんだら、 「三宅さん、亀だったの?」 「違うよ。亀に呪いを解いてもらうように頼んでるんだ」
♪世界のうちでおまえほど あゆみの呪いものはない どうしてそんなに呪うのか♪
そのまま一番を唄いきって、さて二番はどうだったっけと、頭に浮かぶままにメロディを続けると、
♪どんなに呼んでも返事せぬ 無口なあなたはどなたかと よくよく近くで見てみたら 鏡に映った僕の顔♪
いや、違った。これは替え歌の方の二番だった。しかし、本物の二番と、替え歌の一番は想い出せない。想い出すのは、覗き穴の向こうで、夜の闇に照らされながら、じっとハンディカメラをかかえている笑顔。 なんだか、たとえ深夜だとしても、無視して寝て、悪かった気がしてきました。 「バカ! 何時だと思ってる
!! 」 そう怒鳴ってやれば善かったのかもしれない。 でも、今夜また来たら、やっぱりそのまま寝てるか、起こされたことに苛立ちながら、こうして文章でも書いているか、どちらかでしょう。 ちなみに今は午前四時半。もうすぐ夜明けかな。
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