あ・はるふ・まんすりー・こめんと 2002年10月1日

 
  千曲川あるいは中麻奈

 信州をうろうろしてきました。千曲川は綺麗ですね。

  信濃なる千曲の川のさざれ石も君し踏みてば玉と拾はむ

 万葉集3400番。これは秀歌です。
 川底の石を踏んだ「君」は、もちろん裸足だったのでしょうね。その足裏(あなうら)に触れた小石を抱き締める。美しい恋の歌です。
 一歩まちがえたら、谷崎潤一郎の世界に突っ込んでしまいそうだけど。踏まれる快感。おっとっと。そこまでいかなくても佳いですよね。

 関係ないですが、最近、あちこちの寺社で「これが『君が代』に出てくる"さざれ石"だ」という某県出土の岩塊が飾ってありますけど、それじゃあ千曲川のさざれ石が可哀想ではないかなどと思ったりして。千曲川にあっても、さざれ石は、立派なさざれ石です。
 あれもさざれ石、これもさざれ石。本当にあれがその石だったら、有り難みも何もありませんね。

 ところで、万葉ではこの歌の次の3401番に「中麻奈」という意味不明の言葉が出てきて、多くの本では「ナカマナ」と読んでるのですけど、歌人の故・斉藤史が、これは地元の訛りで「チョウマノ」と読み、これも千曲川のことだ、という説を引いてましたが、千曲川を「チョウマガワ」と発音するような人には会えませんでした。もう、そんな発音はもっと奥の地元民同士でしか話されないのでしょう。
 残念です。

 
  クロサワの「夢」

 黒澤明監督が映画「夢」で撮ったと云う、高瀬川支流も美しかったな。意外に、観光客は見向きもしていなかったけど。「七人の侍」とか、「生きる」とか、「世界のクロサワ」の代表作なら、もっと注目されたのかしら。
 そういう場所だなんて、その場で地元の信州の人に教わるまで、知らなかったのですが、そう聞くと、たしかに思い当たるシーンがありました。たぶん、話の前半、子供が野原で戯れるところか、もしくは、ラストの川辺近くを巡るシーンだとおもう。実は、ぜんぜん違ったりして。ははは。
 さる昔、どうしてだか、僕はこのマイナー作品を公開時わざわざ映画館まで観に行って、たぶん入場券がどうしてか手に入ったのだろうけど、不思議に強く印象に残りました。
 この偉大なエンターテイナーが徹底的にエンターテイメントに背を向けてる妙な奮闘ぶりのせいでしょうか。ストーリーも何もないし、絶対、名画じゃないんだけどな。何故か忘れられないシーン満載でした。美しい映像と、気味が悪い映像の、はなはだしすぎるコントラストのせいかも。
 でも、綺麗でした。

 
  タマちゃん、ふたたび

 横浜中心街から大岡川へと南下して、そのまま横須賀のシー・パラダイス、つまりアザラシ飼育場へたどり着くのでは、と冗談をささやかれていたアゴヒゲアザラシの「タマちゃん」は、ふたたび北上して帷子川に現われました。
 人手の届かぬコンクリート護岸に寝転がっているニュース映像を見ていると、「もう少ししてから帰って欲しい」などというコメントが放送されていましたけど、
 「これって住み着いちゃってるんじゃないの」
と言いたくなるほど、落ち着いて見えました。大きなあくび、しちゃって、まあ。
 帰ると云っても、東京湾から房総半島沿いを巡って、東北地方をまっすぐ北上する労力を考えたら、もうこのままでも仕方ないんじゃないか、という気がします。大平洋へ果敢に突進してゆく、というのも、そのままフィリピンに流されてしまうのでは、なんて思わなくもない。うっかり海流に乗ったら、ハワイまで陸はないし。
 さて、もしこのまま寿命まで京浜地区に居たとして、この騒ぎ、続くのはいつまで? すると、いよいよ「捕獲保護」でしょうか。
 無事、捕獲なんてできるのかな。危ぶみますが。
 或る友人いわく、
 「せっかく三宅さんが、一首、歌を捧げたのに、帷子川じゃ「カタちゃん」じゃない」
 いや、そんなことはどうでもいいんですけどね。住み着くんなら、また多摩川にも顔を出して欲しいけど。
 ところで先月、紹介した「たまちゃん」という名の友だちが、こちらのサイトを読んで、メールをくれました。
 アザラシの「タマちゃん」は、
 「動物としてあまりかわいくないので好きではありません」
だそうです。
 うーん。力、入ってます。
 それにしても、台風21号が猛威を奮うなか、「タマちゃん」は何処で過ごしているのでしょうか。やっぱり、ここは安住の地にはほど遠いと、嫌になってしまうかもね…。

 
  「御不満」

 部屋で書き物をしていたら、玄関の呼び鈴がなった。
 「**新聞ですが。※※さん、**新聞に何か御不満はないでしょうか」
 ※※さんとは、この部屋の新聞購読者のこと。もちろん、僕ではない。同居人です。おまけに、こちらは仕事中。喋るのも苦手だし、なにより億劫。
 「ないですよ、何も」
 適当にそう言って、帰ってもらいました。
 まあ、こちらの名前と違うのが致命的でしたね。
 本当は言いたいことは幾らでもあったから、これはちょっとあからさまには書けないし、なんて調子で、口頭、二時間ほど喋ってしまったかもしれない。
 それで近頃「御不満」について、あれも、これもと考えついては、悶えております。そのうち本当にここに書いてしまおうかしらん。
 いや、すでに何度も書いてしまっているかな。
 でも、僕の名前じゃなかったからね。しょうがないでしょ。他人と話す時は、まず、名前ちがったら駄目でしすよね。

 

 御意見、御感想がございましたら、お聞かせください。
 無断転載は禁じます。Copyright(C),Miyake Satoru,2002
Online Order
書店でなくても本は買える!
 

次回

前回

あ・はるふ・まんすりー・こめんと 一覧   三宅惺ホームページ