アウトサイダーの話
一冊の小説が寄贈されてきました。大学以来の知人の著書です。 テーマは明解で、「アウトサイダー(既製集団に属さない者)への共感と憧れと幻滅」を描いた作品。 「マジかよ、今どきそんな古臭い」 と思う人もいるでしょう。僕も、自分が幼児の頃こうした風潮が流行ったのを、後で知った部類。 だから、そう感じるのは、ある意味で正しく、でも、ある意味では必ずしも正しくないのじゃないでしょうか。
正しいのは、現代社会は、近世以前のように宗教組織や芸能関連などでさえもアウトサイダーの為の場所と容認せず、市民全員がインサイダー(既製集団に属する者)となることを要求しているからで、憧れたってそういう対象が現実にほとんど存在しない。稀にはありますがね。 個人が独力で造り上げても、他人が羨むような境遇には、なかなか置いてくれません。常にそれは反社会的存在であるかのような、あやふやな場所です。それが嫌なら、インサイダーに参加を要請するほかない。そんなこと、中学生にだって、普通なんとなく解ります。学校生活が、たっぷりと教えてくれるから。 だから、憧れるとすれば、それは過去を対象にすることが多い。だから、大抵、最後には幻滅が来るのです。過去は現在じゃないし、自分は過去にはなれない。
にもかかわらず、必ずしも正しくないのは、まず、アウトサイダー指向というのは個人の性格にまとわりつくものだから、アウトサイダーとして生きる人間が仮にいなくなっても、アウトサイダー指向の人間を絶滅させることは不可能であること。それだけでも事は重大ですが、しかし、なにより問題は、人間の集団掌握術というのがほとんど進歩していないため、アウトサイダーを生じさせずにインサイダーを纏める方法が現実に存在していない、ということ。総ての人間がインサイダー指向で生きたとしても、集団は組織維持のため、アウトサイダーを必要とするということです。 だから、本人の意志に関わりなく、アウトサイダーという存在は作り出されてしまう。そのため、インサイダー指向の人間は、常にアウトサイダー視されないよう、注意おこたりなく振る舞わねばならないのです。インサイダー指向の者が、アウトサイダーへとはじかれてしまうと、<いじめ>が始まります。だから、インサイダーは多かれ少なかれ精神衰弱気味。疲れるでしょう、それは。 そして、インサイダーでいられるためのハードルを上げてゆけばゆくほど、インサイダー達の組織としての一体感は高まり、アウトサイダー達が増えてゆく。逆にハードルを下げると、組織は弱体化し、アウトサイダーは減ります。つまり、反比例です。 この問題を解決できた組織はファシスト政権だけでしょう。アウトサイダーは全部「敵」として滅ぼそうとする。ただ、自分達の中にアウトサイダーが見い出せなくなると、自分達の外が全部アウトサイダー、つまり「敵」に見えてしまうのは避けられないんですよね。かくして、いずれ、戦争開始。南無阿弥陀部。 インサイダーあってのアウトサイダー、アウトサイダーあってのインサイダーなんですがね。
ちなみに、その小説では、主人公はずっと海外にいます。日本には彼がアウトサイダーになれる場所はないし、そもそも彼はそれを造り出そうと闘いもしない。そんなタイプじゃないのです。なのに、インサイダーにすんなり収まれもしない。それが、外国にいれば、それだけで外国人というアウトサイダーでいられるわけです。 でも、長く居すぎたら、その国の住人になってしまう。インサイダー化するわけです。ほかに、はじき出された生き方もできない。だから、主人公はまたインサイダーに収まるしかないんですね。 収まれなかったら、インサイダーたる必要条件である規律、おそらく法律と衝突するなどして、自滅するほかはないですが、そこまで荒れてるようには描かれてない。おそらく、帰国後この主人公は普通の社会人に復帰したのじゃないかな。 だから、そんな憧れをいだくのがバカの証拠と片付けてしまっても良い。けど、こういうタイプって、まず絶滅しないんでしょう。隣の芝生は青く見えるんですよ。 しかし、一方、死ぬまでそういう場所を造るべく闘い続けるバカも、跡を絶たないに違いありません。
ちなみに、僕は十代なかばからこんなことを訥々と考えていたので、そういう闘いもしない漠然とした憧れってのは、今一つピンときません。だから、この主人公にはあまり共感もできませんでした。 ただ、これまでの人生、なんとなく集団にほとんど所属しないではきましたが。これからもそうなんだろうな。きっと。 その中で、学生時代に、この作者等と一緒に、詩歌句、小説など、二百篇以上の下手糞な作品を発表したのが、僅かな例外でしょうか。(そのうちの百五十以上は短歌でしたが)。もう一度だれかと一緒にやろうという気には、もうなりませんね。そんなのは二十歳前後だけで良い。
そんなふうに、いろいろ考えさせてくれた著書でした。興味があれば、読んでください。高橋達矢著『旅のベンチ』です。
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