3ホーマー
PL学園の清原がホームランを三本打った試合を、十九歳の僕は、ラジオで聞いていた。 自室の隣の部屋をなぜか清掃中。整理整頓を兼ねた模様替えだ。 もちろん、やりたくてやっていたわけではない。それを言い付けた家族達は、僕にすべてを任せて、別の用事で外出中。僕は夏休みが始まる前日に足首を傷め、ようやく歩けるようになってきたばかり。松葉杖をついて通院する以外に、外へ出たのは、一月以上前だ。それで、高校野球を一人で聞いていた。 窓を全開にしても、暑い。どれほど冷房の利いた部屋でゆっくりテレビを眺めていたいと思ったことか。 ラジオでは、PLの猛攻が続き、清原の三本目のスタンドインを聞いた時は、もういいかげんにしてやれよと思った。それまでに清原の本塁打は何度も生中継で視ていたから、映像が目に浮かぶようだった。その快心の笑顔も。そして清原は、高校三年間に春夏合わせ甲子園球場で十三本のホームランを打った。 夏の病人や怪我人と高校野球は、相性が良い。僕は何度も経験している。 南の窓から夏の太陽が痛かった。
今夏、大阪桐蔭の平田が三本目のホームランを打った時、僕は昼食直後、南東の窓からの快い涼風に吹かれていた。バックスクリーンをはるかに越えた、1点負けていたところからの逆転2ランだから、鮮烈だ。「清原以来二人目」とアナウンサーが連呼する。一日「清原」「清原」の名前を何度も聞いた。 その日の朝刊のスポーツ欄には、「二軍落ちの巨人の清原、左膝の手術、今期は絶望」と載っている。 今の僕には、これといって体に悪い処がない。そのうちまた歯医者に診てもらおうかとか、耳鼻科で体を洗ってもらおうかとか考えている。目に青空、耳に蝉の声、傍らのテレビで高校野球。こうしていると、あの年の夏と何も変わらない。 ただホームランを打ったのが、清原ではなかったこと。それが、わずかなズレを引き立てている。暦の上では、すでに季節が違っていた。
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