大根の歌
真白なる大根の根の肥ゆる頃
うまれて
やがて死にし児のあり 石川啄木
子供の頃、辞書で「大根足」の項に「細い足の女性への誉め言葉」という内容の記述を読んで、首を傾げた。少なくとも僕の周囲で「大根足」という単語は足の太い女性への揶揄として使われていたから。
歌人・石川啄木は、自分の長男が生まれたとき「大根のように太った、男らしい子供になって欲しい」と願ったという。やはり大根は太いのだ。もっとも、この赤ん坊は生まれて二十四日目に亡くなってしまうのだけど。
今では『広辞苑』にも「太くて、ぶかっこうな女の足」と載っている。
大根足の意味が変化するのは、前世紀の70〜80年代に首都圏で流通する大根の主流が、細い白首大根から太い青首大根に移ったからだと知ったのは、ずいぶん後のこと。東京の白首大根の中心は、もちろん練馬大根で、青首大根はもともと愛知県辺りがルーツらしい。
とするとだ、啄木の大根はいったいどんな大根だったのだろう。大根は種類が豊富で、明治時代の岩手県出身である啄木にとって「太い大根」とは何なのか、見当もつかない。啄木には白首大根が太く見えたのか、それとも当時の岩手では早くも青首大根が普及していたのか、あるいはまったく別の種類の大根なのか。
そんなことをつらつら考えていたら、すると,もうひとつ大根の名歌が頭に浮かぶ。
ゆふされば大根の葉にふる時雨いたく寂しく降りにけるかも 斎藤茂吉
これは秩父地方の大根の歌だ。大根の根ではなく葉の歌だから、根が細かろうが太かろうが大差はないけど、やっぱり気にかかる。
そんなことを考えている暇があるのならば、もっと別のことを考えるべきか。そうだろうな。たかが大根。
されど大根。
宗次郎に
おかねが泣きて口説き居り
大根の花白きゆふぐれ 石川啄木 |